響くのは、
水音水音水音水音みずおt、








文字通り、浴槽に溺れながら、
水の中に、自分の吐き出す二酸化炭素に、相手の胸の中に、さえ溺れながら、








私は彼を、彼は私を、殺そうとしながら、互いを貪り喰っている。








聞こえるのは、


水音、心音、酸素を求める音、無様に生を求める音、それを塞ぐ音、殺意をもって相手を食す音。









左胸を齧られた事に、私の身体は跳ね上がり悲鳴を上げる。
水を撒き散らしながら、もがく姿は、惨めな魚のそれであろう。


猛禽類にも似た恐ろしい金の瞳と目が合って、
それが私の心臓を喰らおうとしている事に気付いてしまって、
私は其の鋭過ぎる殺気に身が焼かれるような恐怖を感じ、叫んだ。











音、音、音、音、音、おt、












世界の全ては音によって構成されている私もまたその一部でしかなく彼も無論その一部でしかなく我々が互いを貪っていてもそれも全てが世界の一部であるのだからこのように小さな浴室の中であったとしてもいつかお互いが居た事のある母親の胎内の中からでさえ私たちは水音を聞いて眠り息をして“生き”をしていたのだ世界の一部でありたいと。















「…ッは、…っ…ソ、」
















彼の名前を呼ぼうとした私の声は、


すぐに彼の獣らしい顎に噛み付かれ、


小さな浴室の小さな浴槽に、沈んで消えた。


























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〜05,07,28
095,あの日の浴室


あの日、
自分が信じられなくていっぱいっぱいなカイと、
自分のことばかりでいっぱいいっぱいなソルが、
とってもいっぱいいっぱいだった日が、うっかり被っちゃった日に、
だけど二人共せいいっぱい生きたいんだと思ってた事に気付いちゃった日。

ふやける前に出なさいよ、お二人。というおはなし。