あたたかいキャンドル。
灰色の空はぼやけた雲で街を包んで、
積もった雪すらやわらかく、行き交う人々は忙しそうに。
けれども、笑顔を交わしながら。


谷の下に広がっていたその景色に、
俺は暫し、ただ呆然と魅入っていた。



ああ、
これが人間なのだ。



気付かず零していた溜息が、白く上り、
俺と全く同じ、相方の目線が、それを捉らえる。

俺は、彼の白い上着が、
僅かにこちらへ向いてくれた事に、少し笑って、
たいした事じゃ、無ぇんだけど、
と口を開いた。



「何も壊さなくても、生きていけるんだな、」



そう言った俺に、
彼は再び街へと視線を戻して、
いつものようにゆっくり、
…あぁ、と。
頷いてくれた。



瞬間、

ぴんと張り詰めた気配に、
俺達は同時に背中を合わせる。
ああ俺達の向こうにはこんなにきれいな世界が広がっているのにどうして俺達は…、


「来るぞ。」


短く落とされた背中の声に、
俺は剣のグリップを握り締め、
ただ笑う。


そして。



銀に染まった雪原を、

白と黒の、炎が焼いた。



















Merry Christmas, Mr.Lawrence !
on Christmas Eve.

〜あの日、あの時、あの場所で、〜



















「クリスマスって、何?」

いつも以上に寝ぼけた赤い目に、そう問われ、
俺達はツリーにオーナメントを引っ掛けたまま、
呆然とそちらを見る。

す、と紙飾りを作る手を止めて、ウンチクを始めようとしたヨンに、
俺は慌てて、メモ用紙を押し付けると、
三郎へと向き直った。


「クリスマスってのは…、御馳走食べて、プレゼント交換とかして、ぱーっと騒いで、
サンタが子供にプレゼントを配り歩く日だ!」

「兄さん、それ、大雑把過ぎ。」

「下手に説明しても、わかんねぇだろ。」


手も止めずにツッコミをくれた二郎の、
大きな溜め息が聞こえた気がしたが、
俺は、
メモを眺めているヨンへと口を開く。


「それ、買出し頼むな。七面鳥とか大きいから、気をつけろよ。」

「はい。」


返事と同時に席を立ってくれたヨンに、
俺は、三郎の頭を軽くかき回すと、
お前も行ってくれるか、と聞いた。

ゆっくりと、けれどしっかりと頷いた彼に、
俺は少し笑って、続ける。



「カイが喜びそうな、美味そうなケーキ買ってきてくれ。」

「わかった。」
















“あの日、あの時、あの場所で”…、
何処かで聞いたラブソングでは無いけれど、
其れは本当に、ちいさな、偶然の、

寄せ集め。















「本気なのか?」

珍しく瞠目して俺を見る相方に、
けれど、俺は大きく頷いて、胸を張った。


「この街で、暮らす。」


少しの間、俺を見ていたその赤い眼は、
やがて、白のヘッドギアに隠れ、
代わりに長い溜め息が、ゆっくりと冬の空気の中に立ち上る。


「す、少しくらい平気だろ?!
…あ、ほら、さっき逃がしちまったヤロウの足取りを探る為に、とか!」

「余計、逃げられるだけだろう。…拠点は?」

「や、宿…とか?」

「金は?」

「…な、無かった、っけ?」

「………。」


やはり吐き出された長く白い、肯定の溜め息に、
俺が、あたたかな街中で、文字通り凍りつこうとした、その時だった。


「お兄さん方、住み込みのバイトなんて、する気ありません?」


何時の間にか俺達をニコニコと見上げていたのは、

右手に『クリスマスケーキあります!』の文字が躍るチラシの束と、
左手に“すてっぷ商店街”の文字の入った風船の束を持った、

一人の少女。


その細く華奢である腕が、
荷物を持ったそのまま、
俺達の腕をがっしりと掴んで、

にっこりと、笑う。



「する気、ありません?」














“あの日、あの時、あの場所で”…。
そうして俺は、美しい巴里の街中で、
あのこ、と、
出逢って、しまった。









「ケーキ、下さい。」





柔らかそうな黒髪に、
うっすらと雪を乗せたその子は、

俺と同じ真っ赤な、
、をしていて。










We wish you a merry Christmas.
We wish you a merry Christmas.












「そ、そ、その…、お、俺…!」

震える喉で、彼の手を握れば、
その少し高い体温が伝わってきて、
俺はそれにすら動揺しながら、
けれど、彼のその眼が、続きを促してくれているのが分かって、
俺は意を決して、続けようとしたのだけれど、

ふと、

気配を感じて口を閉じる。


そして、
俺を見返していた、赤の瞳が、
その気配を見つけたように、
ゆるりと巡って…。




ゆっくりと、

砂利道を踏みしめる二つの靴音が、

一歩、
また一歩と、

近付いてくる、温度。





「やぁやぁ、御機嫌麗しう。」

「親愛なる、我が弟の、友人殿。」






厭くまでも何処までも、やわらかく、
滑らかに耳に触れてくるのは、

目の前の彼とそっくりな、声、と、
彼と全く同じ黒衣の靡く、音、と、

ぱちぱちとはじける、小さな、電気の、響き。


「お、お、御兄様、方…、」


意識せずとも震える喉から落ちた俺の言葉に、
どちらともわからない、
「“御義兄様”?」
という低い呟きが聞こえたような気がしたが…。


二人は、
まるで一枚の肖像画のように、

にっこりと、
その
真っ赤に輝いた両眼で、

微笑んで。




「「良い試合に、しましょう。」」




同時に聞こえた優雅なその声と共に、

季節外れの、強大な発雷が、舞い降りた。











We wish you a merry Christmas,
We wish you a merry Christmas,
We wish you a merry Christmas,
And a .....












『原因不明!凶悪テロか?!』

クリスマスに盛り上がる朝刊を大きく飾った、
悲惨な爆発事故の記事に、

カイが、朝食後の紅茶を飲む手も忘れて、
呆然と呟いたのが聞こえる。



「痛ましい事件です。」

「そうですね。」



…昨夜、
何処かから三郎兄さんを連れ帰ってきた兄さんたちが、

何故か、
木刀なんかを片手にしていた事を思い出しながら、

私は、何も気付かない振りをして、
小説の続きに没頭する事にした。







coming soon !






05,12,10