「そわそわそわそわそわそわそわそわそ」
「………口に出てるぞ。」
心底うんざりとした相方のそれに、ハッ!として口を抑えると、
確かに開いてしまっていたのに気付いて、
とりあえず両手でぐいぐいと上顎と下顎を仲良くさせようとしたんだけど、
手のひらがじんわり汗ばんでいたのにも気付いてしまって、
俺はタオルを探そうとして何故かトイレに行き、
きちんと掛かっていたトイレットペーパーをくるくるくるくると引っ張り出して、
もう一つロールを作り直してみようかと同じようにくるくるくるt…、
「いい加減に、しろ。」
ごすっ、
響いた鈍い音は結構な衝撃で、
床に転がった俺のチカチカする視界の端っこで、
相方が、封炎剣を肩でとんとんとやっているのが見えた。
(え、今のもしかしなくても柄?!柄は痛いだろつか痛ぇー…っ!)
「…外でも歩いていれば、少しは気が紛れるんじゃないのか?」
言いながら上着を放り投げて、彼が時計を見る。
そして俺は見なくても分かる。
張り切りすぎて夕食を文字通り夕方にかき込んでしまった俺は、
食べ物を消化しているのかすら分からないほどに、そう、
要するに緊張をしてしまっているのだが、
きっと飯なんか食べなくとも、腹なんか減ってなかったんだろうな、なんて今更に思いながら、
とにかく問題の時間までには、まだ早い、という事を、
さっきから時計が止まっているんじゃないか、くらいの頻度で時計を見ている俺は、
十二分に承知しているのだ。
そして恐らくとも、
俺が余計なことを考えてうだうだしているのが丸分かりらしい彼は、
深い溜息と共に煙草の煙を吐き出すと、
いつの間にか短くなっていたそれを灰皿で揉み消した。
その灰皿に詰まれた吸殻の山と、うっすらと煙い部屋に、
あれ、こいつ、今日は吸い過ぎなんじゃないのか、なんてようやっと気付いた瞬間、
後ろ襟を掴まれて、身体が一瞬宙に浮く。
「、え、ちょ、おい、!」
「さっさと、行って、来い。」
俺を外に放り出したドアの隙間から、
深く眉間に皺を寄せた彼の顔が見えて、
そうして、ばたん!と閉められたドアからは、
きっちりと施錠の音なんか聞こえたりして。
しばしその場に立ち尽くしていた俺は、
大きく息を吸うと、
腹を括って、立ち上がる。
「…ええと、先ずは、…は、弾んだ会話を…、スタンエッジ注意で…、」
壁にかかった目標に、なんだかんだ言いながら、
仲間達が書き込んでいってくれた数々のアドバイスを思い出しながら、
俺は、
日の傾き始めた町を、歩き始めていた。
Merry Christmas, Mr.Lawrence !
on Last Night.
〜朝日を見に行こうよ〜
「あれ?サブはどうした?」
そう言って、
はじめ兄さんが台所に顔を出したのは、
片付け当番の私が、夕食の洗い物をしているときだった。
「花火まで寝るそうですよ。」
「…そうか、」
顔も上げずに私がそう答えれば、
納得したような、ホッとしたような、けれど浮かない返事が返ってくる。
邪魔したなー、と手を振って二階へと向かう兄さんが、
この時、僅かに眉根を寄せていたのを見てしまって。
ああ、本当にこの人はこういう人だから、
なんだかんだ言って、一番三郎兄さんの身を案じているのだ、と、分かって。
気付かない振りをして、洗い物を続ける私の視界の端で、
三郎兄さんがこっそりと玄関から出ていったのは数分前。
(、寝ている、なんて、言ってしまった…、)
兄に初めてついてしまった嘘に胸が痛んで、
私は、いつもより覇気の無い背中にごめんなさいと胸中で囁いたけれど。
人ではない、其の歪んだ影である。
その境界線があるという確固たる事実さえも、霞ませてしまう、
三郎兄さんと違う、あのやんちゃな義弟とも違う、そして、ソルとも、まるで違う、
強い、真っ直ぐなあの、赤、を思い出して、
私は今日の嘘が、
少しでもいい、誰かに幸せを与えられれば、と。
そう願った。
雪も止み、
真っ白な月が浮かびあがる夜空に、散りばめられた星。
これなら花火もよく見えるだろうな、と、
楽しそうに笑っていた兄さんたちを思い出して、
それまでに帰れるか考えていたのだけれど、
闇の中でもはっきりと浮かび上がる、
鮮やかな金髪が、一房風に揺れているのが見えて。
いつかのように大きくくしゃみをした彼は、
俺の姿に気付くと、び、と背筋を伸ばして、
こ、ここここんばんはっ、!と言う。
その、真っ直ぐで、懸命で、
飾り気の無い鮮やかな、
けれどとても優しい、色が、俺に触れて、
(ああ、なんて新鮮な、この景色、)
俺は手にした紙袋をそっと自分の背に回して、
、今晩は、と、答えた。
「…、あ、?」
思わず声に出してしまいながらも、もう一度確かめる。
しかし、
手の中に収まる小さな箱は、
逆さにして振ろうとも、微かな音さえも立ててくれなくて。
「…今日は、厄日か…、」
舌打ちと共に煙草の空箱をぐしゃりと潰して、ゴミ箱へ放る。
結局昨日から一睡も出来なかったらしい、あの馬鹿が、
ずっと家の中でも落ち着かなかった(、等というには酷く温いが、)せいで、
それを永遠と視界の端でやられるこちらとしては、
ストレスも溜まるというものだ。
札をポケットに捻じ込んで、コートを羽織ながら時計を見る。
まだ店も開いている時間だろう。
俺は、
奴は無事に待ち合わせ出来たのだろうかと考えて、
それが、ガキの初めてのお使いを心配する親か何かのような心境に似ている気がして、
そんなことを考えてしまう事に大きな絶望を覚えながら、
深々と吐き出した溜息と共に、
暗くなった部屋を後にした。
「サーブー、起きてるー?寝てたら起きてー。」
温かな湯気の立つ椀の乗ったトレイを揺らさないように、
部屋のドアを足で開けて、
僕は、慣れた暗いその部屋を横切りながら、
こんもりと盛り上がったベッドへと近付く。
「張り切って年越し蕎麦なんて打っちゃったんだけど、ちょっと味見してくれない?」
カイも食べれると思う?なんて聞きながら、
サイドテーブルにトレイを置いて、
いつもならば、この辺りで聞こえてくる呻き声が無い事に首を捻りながら、
僕はいつものように、布団にぶら下がる彼を引き剥がそうと、
思いっきりその掛け布団を引っぺがして…――。
「いやぁああああああああ!!!」
突如邸宅に響いた絹を裂くような(?)僕の悲鳴に、
どたばたという足音を立て、みんなが部屋に駆け込んできた。
「どうした、二郎…ッ!?」
既にお祭気分だったらしく、
“2007”という数字が連なった、
阿呆な眼鏡を掛けたままの兄さんが叫んで、僕の肩を揺さぶる。
「二郎さん、一体何が…、」
言って僕を覗き込むカイ(幸い兄さんの遊びには便乗していない)の視線も、
僕の固まったままの目を追って、
そのまま凍りつくのが分かった。
そこにあったのは、
涎でも垂らしながら爆睡しているはずの弟の姿ではなく、
いつか、僕がそれぞれに似せて作った、彼の人形が、
あの目を模した紅いビーズを、暗闇の中で煌かせている、だけで。
「、だって、さっきまで、夕飯食べた時まではちゃんと、居て、!」
「落ち着け、二郎!ちょっとそこまで出ただけかもしれないだろ?」
「…“ちょっとそこまで”って…、あいつが“ちょっとそこまで”行くとこって何処?!!」
最近では、散歩に行くことすらも、寒いからいやだ、なんて言って、
めっきり引きこもるあの快適な睡眠を何よりも優先している
(むしろ考える事すらも面倒臭がっているように思える)あの弟が、
僕等の誰かにすら何も告げずに、わざわざ大晦日に外をふら付く理由を問われて、
兄さんの顔からも、段々と表情が消えていく。
「…まだ遠くまでは行ってないと思う。何かあったなら…、」
「待て。」
言いながら既に駆け出そうとした僕を止めて、
兄さんが、すうと息を吸う。
瞬時にぴり、と空気が帯電していくような感覚が拡がって、
兄さんと、僕と、ヨン、そしてカイを、
何かの線で繋げているような感覚が、部屋を満たした。
そして、
その線の先に、ふうと触れたのは、弟の姿と、それから…――、
「「………あの野郎………」」
ぐらぐらと煮立ち始めた腹の其処からのその声で呟いたのは、僕かそれとも兄さんか。
ずるりと顔をあげた兄さんの髪が、
窓からの月明かりに透けて煌き、
その“2007”のラメの乗ったフレームから射抜く眼光は既に、
滾る、赤。
「行くぞ、二郎。」
「OK、兄さん。」
ゆっくりと歩き始めた僕達に、反射的に道を譲ってくれたらしいカイとヨンに微笑んで、
僕は、標的の居場所までのありとあらゆる追走ルートを、
頭の中で計算し始めた。
「ぶぇっくしょい!!…あー…、」
何だか背筋を探り当てられたかのような一瞬の悪寒が強烈で、
俺は、顔をしかめたまま鼻をすする。
あれから、特に会話も無いまま、(お、俺の阿呆!!!)
街の方にまでふらふらと歩いてきてしまったのだが、
隣のあのこは寒くないだろうかなんて思い覗き見れば、
あのこが、ふと顔を上げて後ろを振り向いた瞬間で。
大晦日だということで閉店した店ばかりが立ち並び、
殆ど人の気配の無い街中は、
いつもとまるで気配が違う。
それをじっと探るように見つめるその目の先には誰かがいそうで、
なんだか幽霊でも見えているんじゃないか、なんて(いや、だって夜だし!)
ほんの少しの心配と共に、彼の視線を追いかけながら口を開いた。
「…何か、いました?」
「…うん、いや、いない、…でも、」
珍しく曖昧な言い方をする彼の眉が、
難しそうに寄せられて、
俺まで思わず眉を寄せてしまったんだけど、
突然彼は俺へと向き直り、やや早口で続ける。
「花火とか、嫌いか?」
「え、いや、全然…、むしろ好きな方だと思、」
「じゃ、行こう。」
俺の言葉を待たずにそう言った彼は、
ぐい、と俺のジャケットの袖を引いて、
街の中心から少し外れた、丘の方へと足を進め始めた。
ブレーキと地面につけたブーツの底が、
悲鳴をあげ、砂煙をあげ、風を切る。
そしてある程度の減速と共に飛び降りれば、
重力と慣性と世界のありとあらゆる法則に従って、
自転車は綺麗に地面を滑り、
通りの端にある廃棄場へと突っ込んだ。
ガッシャァアアンッ!などという盛大な騒音が響くが、
今やこの街の殆どの住人が、
川辺で行われる花火大会の会場へ足を伸ばしているのだ。
心配はない。(そしてどうでもよい。)
俺と同時にひらりと着地した弟が、
自転車の突っ込んだ撃風を受けて、その亜麻色の髪をさらりと揺らしながら、
実に楽しそうにきらきらと煌く赤で、辺りを探る。
「駄目だよ兄さん、此処にはもういない。」
…残〜念、と呟く彼の唇は、
だが綺麗に、実に綺麗に弧を描いたままで。
「うーん、花火会場の方に行ったのかな、気配がちょっと捉えにくいかも。」
くすくすと笑う弟の言葉に頷いて、
だが俺は、ノイズ交じりにも脳内に描き出した地図の上で、
その気配を辿りながら、口を開いた。
「二郎はそっちから行ってくれ。俺はこちらから回り込む。」
「了ー解。」
それと同時に走り出した俺が、
無人の大通りを駆け抜け、
更に加速をつけて路地を曲がりきった、瞬間。
、どん、!
「うわっ?!」
「っ!」
予想だにしなかった衝撃に弾かれて、
俺はそのスピードを殺せずに倒れそうになったんだけれど、
次に俺を襲ったのは、硬い地面の感触、ではなくて。
「、大丈夫か、?」
掴まれた右腕によって、倒れずに踏み止まった俺が相手を見上げれば、
そこには、いつか会った、
そして今まさに追いかけていた相手と、全く同じ容をした、顔がある。
その白いヘッドギアから見下ろすその赤が平静で、
けれど、ぶつかった俺に怪我も何も無いことに、
少し安堵しているようにも見えた気が、したのだけれど、
今の俺にはそんなことに気付く余裕すら、なくて。
「…お前も、仲間だったんだな、」
突然そう言った俺の言葉に、彼が不可解だと眉を寄せたのが見えたけれど、
そんなものは、安い芝居だ。
俺は、彼の左腕を振り払って、
その、ソルとはまた違う、静かな深い赤を睨みつけながら、叫んだ。
「お前等が何者かなんてどうでもいい!だが、弟達を巻き込むのなら…俺はお前達を赦さない。」
言って右手を開けば、ぱり、と音を立てて、
未だ姿の無い封雷剣が応える。
「それで?お前が俺の足止めをするのか?」
けれどそいつは、
やっぱり静かに、けれど深い溜息を零して、
ただ、すうと、俺に振り払われた左手を、こちらに向けて制した。
「俺はただ、煙草が切れたんで買いに出ただけだ。」
彼は、ただ静かにそう告げる。
その姿には、殺気もなく、邪気もなく、怒りも無く、呆れも何も無い。
確固たる、事実。
唯、それだけを俺に伝える為だけの、音。
それは、熱くなっていた俺の脳神経に静々と水を流し込むような温度で、
じわじわと全身に浸透していって、
俺は思わず呆然と彼を眺めてしまっていた。
しかし、剣の気配すら霧散させた俺に、
彼はゆっくりと歩き出すと、
摺り抜けざまに立ち尽くす俺の頭を、突然その左手で掻き混ぜる。
「っな、何しやが…、!」
「邪魔したな。」
我に返って叫ぶ俺に、ひらりと手を振って、
やはり彼は、白いコートを揺らしながら、
俺の走ってきた通りへと、姿を消していった。
「…な、んだ、あいつ…、」
呟いた声が白く上る道に残されたのは、
立ち尽くしたままの俺と、
撫でられた一瞬の左手の、その温度。
そうして、
遠くから聞こえ始めた歓声に、我に返って走り出す。
この年が終わってしまうまで、
あと、少し…――。
地元の住民しかしらないらしい、
高台にある小さなこの丘の上からは、
さすがに会場は見渡せなかったが、
充分に花火を楽しめそうなところに位置していた。
幸い穴場だったのか、人の姿も無く、
これならゆっくり観れそうだなあ、なんて安心して息を吐いた瞬間、
相方が言った“膳”だの“据える”だのという単語が頭に浮かんで、
俺は撫で下ろしたばかりの胸を叩き上げてしまって、派手に咳込んだ。
「…大丈夫か?」
「げほがはごほっ!ぜ、ぜんっぜん大丈夫ですっ!!」
息苦しさに叫ぶように返事をして、は、と気付く。
@人気の無い、ベスト夜景スポット。
A隣にいる、あのこ。
B↑がこちらを向いて、話を聞いてくれる体勢。
=これが、弾んだ会話、の絶対的チャンス、なのではないか…?!
「、あの、!」
言った俺に、その赤がこちらの目を捉えて停止する。
俺は、思わずそこから逃げ出したい衝動に駆られたんだけど、
その色が余りにも不思議にあったかいような温度だったから、
動けないまま、必死に言葉を掻き集めて、吐き出した。
「、俺、ずっと…伝えたかっ、た、ことが、あって、!!!」
「俺も。」
「………へ?」
まるで予想していなかった素早い返答に、
俺は思わず間抜けな声をあげてしまって固まる。
けれどあのこは、
ふうと、その赤を伏せて、ゆるりと地面を彷徨わせて、
口を開いた。
「、俺も、ずっと、言いたかったことが、あるんだ…。」
囁くようなその音は、忘れもしない、
初めて聞いたのと同じ、まるで寝起きの時のように柔らかく掠れた、色で。
ああ、余りの景色に、ぐらりと世界が、融けそうだ、!
「、え、そんな、まさか、いや、でも、あの、おれ、」
文字通り夢にまで見たこんな展開が、
いやもしかしたら本当に夢かもしれない、
でも多分、今俺は自分の頬を抓っても引っ張っても、
痛いとは思わないだろうから判断出来ない。(じゃあこれは夢だ!)
一歩。
こちらへ足を踏み出した彼が、
、すうと揺れて、
俺に触れるか触れないかのその距離で留まる。
目と鼻の先に有るその唇が、音を紡ぐためにゆっくりと開いて…、
、だって、あるわけないだろう、
こんな、
こんなこんなこんな、きせきのような、ゆめが、
、あのこが、お、おれを、す、す、す、すき、だなんてゆめが、あるわけ無、
「これ、あげる。」
「へ?」
ばふ、と俺の胸元に押し付けられていたのは、
ひとつの紙袋だった。
それを俺が反射的に受け取ると同時に、
あのこは寄った時と同じように、するりと揺れて離れてしまう。
訳もわからぬまま、
そして夢から醒めたような(?まだのような、?)心地のまま、
俺が紙袋をあけると、中に入っていたのは・・・。
「兄さんが言ってた。クリスマスには、プレゼント交換するって。だから、」
いつか、俺があのこにフーセンを手渡した左手が握り締めた、
黒い毛糸の手編みのマフラーを解いて、あのこが、続ける。
「これがあれば、寒くない。」
“ 風邪、ひくよ ? ”
思い出すのは、いつか言ってくれたあの言葉。
「足りなくなった毛糸買いに行ったら、会ったから、驚いた…、」
、…あの時は、ごめん、
そう言って、あのこが小さく頭を下げた。
これを秘密にしていたんだとわかって。
少し歪にならんだ大きめの網目が、全てとはそんなこと言わない、
けれど、一つでも俺の為に生まれてきてくれたことが、わかって。
怒ってない気にしてないそんなこと関係ない、
ただ、ただ、
俺は、感情の洪水の中で首を横に振った。
、何も、言えない、
この、むねからあふれてとまらないいきもできない、おもい、をあらわすことばが、
、こえが、でない。
マフラーを握り締めたまま動けない俺に、
あのこが、薄らと、揺れたような、音が、聞こえる。
「、メリークリスマス。」
ゆるりと弧を描いた綺麗なその光景は、
いつか、カイさんが見せてくれたそれと、やっぱり似ていて、そして…、
、ドォ、ン、と闇空に咲いた花火に、わあ、と響くのは人々の歓声。
俺は、そのゆるりと揺れた赤に、笑って、
、あり、がとう、と、告げた。
あたたかいマフラーと、
あたたかいあのこと、
あたたかい景色。
次々に夜空に上がる大きな花火たちに、
俺は、余りにも余りあるこのしあわせを持て余してしまって、
なんだか、このせかいのすべてに感謝をしてまわって、
108周くらい出来てしまいそうな心地に駆られたのだけど。
「…泣いているのか?」
「泣いていばぜん…!!!」
「…鼻垂れてるよ。」
、はい、と言って、
あのこが、ポケットティッシュ(ティッシュカバー付き)
(や、やっぱり家庭的だ!)を差し出してくれる、
このしあわせ過ぎて最早よく分からないようなこの景色を、
一体誰が信じられよう(否、誰もいない!反語!!)。
「…う、うう、おれ、いまならしんでもいい…、」
ずびずびとお言葉に甘えてティッシュを頂きながらそうぽろりと言えば、
「 それは、良かった。 」
、聞こえて、きたのは、
蕩けんばかりの、 甘 い 音 。
「やぁやぁ、ご機嫌麗しう。」
「親愛なる、我が弟の、友人殿。」
、 ザシャァ 、 ザシャァ 、
静かに、静かに、だが確実に砂を踏んで近付いてくる足音が、
何故か花火や人々の騒音に掻き消される事なく、
むしろ、それの隙間から俺の鼓膜を突き刺すように、響く。
「お、おに、い、さま、方・・・、」
喉が、乾いているのが、分かった。
けれど、
闇よりも濃い黒のシルエットが二つ、
ゆっくりと、ゆっくりと、揺れていて。
そしてその顔に浮かぶのは、
美しい、実に美しい、見惚れてしまいそうな笑顔。
その絵画のような滑らかな弧を描いた唇が、
どちらからともなく、
「「“御義兄様”?」」という、
その絵画からは想像も推測も計算も何も出来ないような、
地獄の底よりもっと深くから這い出たような、音、が、聞こえた、ような、気が、した、けれ、ど、
、おれの、からだは、うごかない。
「明けまして御目出度う御座います。」
言いながら、北風を孕んで揺れる、
全く同じ二人の黒衣が、甘く甘く甘く、笑顔を纏って。
そうして、
その絵画が同時にゆっくりと、右手をかざし、剣を現す。
両手で握ったその刃は、ぱりぱりと、
黒と、赤の、光を纏わせながら、夜空へ掲げられ、
ゆっくりと、
胸の前に下ろされ、て…―――
「「 良い試合にしましょう 。」」
この日、
季節外れの強大な発雷が、
まるで新年を祝うかのように、
闇空に大きく咲く大輪の華たちを、
更に、鮮やかに彩ったのであった・・・。
Merry Christmas !
And a happy new year !!
and a Happy Valentine...!!!
〜07,02,14,