その時覚えていたのは、
ただひたすらに、
あいつに会わなければならないという、念い、
と、
ただひたすらに、
雨が降っていた、こと。
それだけだ。
Project of black android.
The first story =the first black.
Black swallowtail.
Preview...
「心音反応確認。胸部神経系、オールグリーン。」
「血管系統アクティブ。」
「呼吸機関起動しました!羊水排出します。」
足元から吹き上がる気泡越しに、
歪んで写る白衣のニンゲンたちが、
慌ただしく動き回るのがぼんやりと見えた。
白い霞のかかったこんな世界じゃ、
今までのように黒の腕に抱かれていた方が、
どんなによかったか。
ああ、それなのに…。
声が、聞こえる。
「おはよう、壱号。気分は如何だい。」
眼鏡の奥の、いやな、め、が、
こちらを見ている。
男は、答えない俺に微かに笑うと、
数歩分あったその距離を、ゆっくりと詰めた。
ひらひらとはためく白衣は、実に楽しそうに、揺れて。
笑いながら伏せられた、紫のその、め、と黒髪も揺れて、
まるで揚羽蝶か何かのよう、だ。
「ああ、綺麗だね。」
そう言いながら、
男の手が、硝子越しに俺をなぞる。
その麻酔のような甘い声は、
脳内を侵食して、じわじわと全身へと拡がっていって。
(“毒”以外の何といえばいい?)
男が、
ひたりと硝子に頬を寄せる。
「私の愛しい息子。」
俺にしか聞こえないほどの其の声は、
唯、硝子を白く煙らせて、
すぐに、消えてしまった。
I hope only for one.
俺が望むのは唯一つ。
I hope only for nothing but one.
俺が望むのは、唯、一つ。
倒れ込んだその男の肩を揺すると、
雨とは違う、ぬるりとした感触が指を伝う。
「…こ、れは…、血…?」
呟いたカイのその腕を掴み、
倒れていた男が、
顔を、上げた。
カイと全く同じ、其の顔を…!
雷鳴が、響く。
「俺を、殺してくれ。」
I hope only for one.
俺が望むのは唯一つ。
Please kill me.
俺を殺して。
俺を、殺して。
Only it is my "HOPE".
「何が“希望”だ、と、いうんだ…ッ!!」
此の黒衣に光る銀の文字が、俺を嗤って、いる・・・!
彼の悲鳴は、雨音に溺れた。
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05,02,22