夢を、みていた。
俺はただ真っ暗な空間に、
ぽつんと一人で立っている。
カイや、弟や、ソルや、誰の姿も無い、
ただの闇。
そんな俺をたったひとつ見下ろしていたのは、
いつか見た、真っ赤な満月だった。
こ こ へ き て
俺は、
その満月の声に答えようと、
それに触れようと手を伸ばして、そして、
真っ赤な其れが、辺りの闇に、
喰われて、
消える。
俺は、
悲鳴をあげていた。
Project of black android.
The third story = XX black.
Black lunarEclipse.
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目が覚める、というのと、起きる、というのは、違いますからね、
俺が目を覚ました時に聞こえてきたのは、
そんな言葉だった。
ぼんやりと瞼を撫でる光が重たくて、
瞼を押し上げることは早々に諦め、
俺は、こぽこぽと鼓膜を揺らす水音に耳を傾ける。
「貳号、お前もそろそろ羊水を抜いてみましょうか、」
先程よりはっきりと聞こえた声が、
誰かにそう呼び掛けると、
隣に在る、ぼんやりとした気配の塊が、
やはりぼんやりと反応を返そうとしているのが、わかった。
(この気配は、誰、なんだ。)
「しかし、」
その声は、くすくすと笑いながら、
だが嬉しそうに、揺れて、
こちらを向く。
「お前の弟は、随分と、お寝坊さんですね。」
I hope only for one.
俺が欲しいのは唯一つ。
I hope only for nothing but one.
俺が欲しいのは、唯、一つ。
「お会い出来て光栄です。カイ・キスク殿。」
優雅に一礼した白衣の男の肩から、
その長い白銀の髪がするりと流れる。
「そして、さようなら。」
硬い音と共に、四方から突き付けられた銃に、
カイは、冷たい視線を返して、口を開いた。
「最初から、これが目的だったという訳ですか。」
「カイ…ッ!」
「ふざけないでよ!!」
口々に叫んだ黒衣の二人が、剣を構えようとして、
その手が止まる。
その凍り付いた視線の先には、
彼等と同じ黒を纏った、もう一人の、
「參号。」
呼ばれた声に、ゆるりとその黒い髪が揺れて、
虚ろな、あかい め が、 覗く。
それが、絶望的な眼をした黒衣の二人を捉えると、
その唇は、ゆっくりと開いた。
「イエス・マスター。」
I hope only for one.
俺が欲しいのは唯一つ。
freedom to me.
“自由”を、ください。
“ 自 由 ” を ください 。
Only it is my "HOPE".
「參号。」
その音と声に一気に起き上がる声紋反応。
身体を駆け巡る信号に、神経と筋肉が動き出し、
頭部は否が応でも、正面を向く。
この建物内なら何処も大して代わり映えのしない、部屋の中。
そこに、
驚きと、怒りと、恐怖と、哀しみと、
いろんな色の混じった色で、俺を見る、
俺と同じ服を着た、俺と同じ“存在”の、ふたり、が、居た。
俺の口が勝手に開いて、喉を動かし、声はやはり滑らかに。
「イエス・マスター。」
ごめん、兄さん。
その言葉さえ、言えないまま。
俺の右腕は持ち上がり、
封雷剣を呼び覚ます。
だらりと俯いた視界に入るのは、虚ろな銀の、四つの文字。
“ H O P E ”
ただ、その文字の羅列だけが、
俺の脳裏をぐるぐると回って。
“希望”て、いうのは、
きっと、きれいなものなんだろう。
…だけど、
その色を思い描く事さえも、
俺には、出来ない。
close...
〜05,05,29