「所詮は、伍号機か。」



“此処”にいる誰もは、
そう言って俺を哂う。



「殺せない暗殺機械…。これ以上に無駄な物があるか?」



俺が目覚めてから、
求められるのは、ただ、其の術だけだった。

けれど、
いくら剣を振るっても、
いくら法力を学んでも、


俺には、知らない者の命を奪わなければならない、その理由が解らなかった。


そして、なによりも問題だったのは…、



「その一撃だけだったら、初号機に匹敵したかもなぁ。けど…、」



そうして笑う声を浴びながら、
俺は堪えきれずに、喉に込み上げた鉄の塊を吐き出した。

ばちゃ、と床に赤黒い華のように散った塊に、
俺は何度も咳込みながら、
最早慣れてしまった鉄の味を噛み締める。


「その体力で何が出来る?…本当に、こんな物しか造れないアイツも役立たずなもんだ。」


苦いそれを吐き捨てて、思い切り相手を睨みつければ、
面白くも無さそうに、俺を鼻で笑って、見下ろして。



もう、何度、
そう呼ばれたかすらわからない、

恐らくは、これが俺の“名前”なのだろう、それを、

ゆっくりと、其の口が吐き出した。






「この、失敗作、が。」














Project of black android.
The fifth story = XX SLASH black.
Black sheep Baccara.

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「もしかしてアンタか!俺を助けてくれたのは!!」



嫌というほどに見慣れた、黒い服。
末の弟と見紛う、
日に白く透けて揺れる、銀の髪。

しかし何より違うのは、
俺とおんなじ、
まっかな目



「あんた、カイ=キスクって奴の家が、何処にあるか知らねぇか!?」



俺は、
期待を込めた眼差しでこちらを見つめる二つの赤に、
ゆるりと彼の後方へ続く、川べりの道を指した。



「あっちの、大きい一軒家。」



瞬間。
ぱぁあと、晴れ渡るその表情が、
青白いその肌に、ほんの少し赤みを差し入れる。



「あっちか!あざっす!!!うおおお待ってろよ、初号機ぃいいいッ!!!」



何か雄叫びを上げながら家の方へと走り去っていく彼を見送って。

やはり、
その台詞の意味を、咀嚼し終わるに、また暫し。




「、はじめ兄さん、?」




俺の呟きは、
そのまま暮れ始めていた、橙色に飲まれて、消えた。












誰かに呼ばれたような気がして、振り返る。

背中にあったのは何ら変わらない、二階の景色で、
俺は、首を傾げながら、洗濯籠を抱えてリビングへの階段を下りたのだが。


「兄さーん、豆腐まだぁー?」

「あー、サブに頼んだんだけどな…。まだ帰って来てないのか?」

「帰宅予想時刻より大分遅れていますね。私が迎えに行ってきます。」


慣れた様子でてきぱきと仕度をして、玄関へ向かう弟に、
たのんだぞーと、手を振って、
俺は、取り入れたばかりの洗濯物の籠を抱えなおして、
洗面所への扉を足で開けた。


「もー、サブってば…。またどっか道端で寝てやしないだろうね。」


お茶でも淹れようとしたのか、
ぶつぶつと言いながらエプロンを外して、
食器棚に向かった二郎の足音が、ふと、止まる。



「…ヨン?何、忘れ物でも…――、おまえ、…、」



僅かに、
トーンの変わった二郎のその声が、背中に触れる。

、珍しい、その歯切れの悪い音への、違和感。

俺がそれに疑問を抱いて、そちらを振り返るよりも早く、
二郎が、強張った硬い音で、続きを紡いだ。




「…なんで、正装、なんかしてるわけ、?」




瞬間。

俺は振り向きざまに床を蹴り、
ちょうど目の前に居た二郎を抱え込むようにして倒れこむ。


その背後を、
巨大な斬撃が通り過ぎていく、風圧を受けながら。


「な、何…っ?!!」


短く叫んだ二郎と共に、
瞬時に体勢を立て直して、リビングの入り口を睨めば、


今し方、
玄関から出て行ったはずの弟と同じ…否、
彼よりももっと色素の薄い、白銀の髪が、さらりと揺れた。


ちりちりと静電気を孕んだ、見慣れた黒い服に、
白い肌…余り健康的とは言い難いほどに真っ白な肌は、ぞっとするほどによく映える。

ただ、俺達のそれと違うのは、


胸にかけた十字を染めるその色が、

その剣から迸る雷光とおなじ、



あか、だという、こと。




それ以外の全てが、
すべてが、俺達に酷似していて、


そしてそれは紛れも無く、此処の家主のその、造型!




「・・・、五、人目、・・・?」



かろうじて音になった俺の声に、
弟も言葉を失って、ただ、
俺達と寸分違わぬ形を模ったその顔を、ゆっくりと俺の方へ向けた、

その、
“弟”を、見ている。



「…金髪、アイタイプ:青…、」



ぎり、とこちらを見つめたその瞳が、
三番目の弟と同じ色だ、などと、
こちらが考え終わるより早く、

彼は、その剣を構え直すと、
迷うことなく、床を蹴り上げた。



「、お前が、初号機かぁあッ!!!」














I hope only for one.
俺が望むのは唯一つ。

I hope only for nothing but one.
俺が望むのは、唯、一つ。















「正直に言うならば、わからないのです。」


ゆるりと、影のある
紫の光が、
黒髪から僅かに覗いて揺れる。


「私は、この世の崩してはならない法則を崩した。生命の誕生という、其れです。」


陰った紫は、この世の影の
を溶かし、
その底に、彼の野望と好奇心の
を埋めて。

それは、けして私が知り得る事の無い、
科学者が、知を求める者が、一線に立って、その目で見てしまった、




「私は、きっとあの子たちを愛しているのでしょう。」



安らかに微笑むそれは、
いつか、私の頭を撫でていてくれた、もう朧にしか思い出せない、掛け替えの無い、
おとうさん、のような色で。

けれど、

ずるりと音も無く、その紫から光が消える。



「それと同時に、堪らなく憎い。」



、あれは、私の贖いきれないほどの、罪なのです、
僅かに掠れた声は、私の耳の奥をじわじわと侵した。

そうして、

微かに震える瞼が、ゆるゆるとその紫に幕を、引いて。



「私の、夢でも、あるのです。」



、カイ殿、
静かに私を呼んだそれに彼を見やれば、
彼は、少しだけ笑ってみせた。


「私は、弱い人間です。未だ、…私は、迷っているのでしょう、」


貴方も、そうでしょう?

そう落としたそれに答えたのは、
今まで口を開かなかった、
長い、白銀を肩に滑らせる、その男。



「私は、迷いなど無い。」



私はただ、貴様を越えるだけだ、
言い捨てた言葉は、ぷつりと途切れ、
ゆっくりと、糸をより合わせるように、音を成す。



「あれは、世界の歪みなのだから。」


言いながら、
その変わらずに鮮やかな
は、すうと引き絞られた。


堪らなく苦しそうに、
堪らずに泣きそうに、



見てしまった私の心臓をぎゅうと締め付けて、
しかしその色は、すぐに私から隠れて溶ける。




「、いつか、消さねばなるまい。」




ちいさな、ちいさなその声は、
白銀が肩から零れて、さらさらと流れる音に紛れて、
消えた。















I hope only for one.
俺が望むのは唯一つ。


I want power to defeat you.
お前を倒す、力がほしい。




お前を 倒す、ちから、が、 欲しい 。












Only it is my "HOPE".















黒いバックルの上で、じんわりと、
赤が沿うように垂れ落ちていく、四文字と、目が合って。



、失敗作、
=不用、不要、無用、不必要、廃棄邪魔塵芥屑捨てる棄てるすてる、いらない。



たとえばもしも、
、しっぱいさく、であるおれが、なにか“希望”をいだいてもいいのなら。



「、初号機さえ、倒せれ、ば、おれ、は、」



掠れる喉は、鉄の味。

ふうと足元から力の吸い取られるような、
慣れてしまった血液不足のその衝撃に、
俺は、抗いもせずに、重力に身を任せた。





おねがいしますおねがいします、いちどでいいのです。

おれをみて、おまえがひつようなんだと、わらって、ください。





空は灰。
血は黒。
俺は赤。





世界は今日も、

虹色の悪魔で満たされている。





けれど、






、おれの
“希望”は、きっといつまでも、色の無い、儘…――。








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〜06,09,10
16.Rainbow Devils Land