彼の武器は、なぜ広範囲に攻撃出来る危険なものであるか。
「それじゃ、危ないじゃないか。」
そう言って、いつもの困った顔で彼が問うたので、俺は、だから選んだんス。と笑った。
一人でも多く、少しでも広く、敵を傷つけるために。
武器の第一条件は、殺傷能力が高いこと、ではあるが。
それは、ヒットマンに任せておけばよいこと。
自分の右腕としての役割は、
いかにボスを危険から守り、敵を蹴散らすか。
それには、一撃必殺の攻撃も勿論有効だが、
ボスが危険に晒される場合として最も危険とされるのは、敵の数が大多数であること。
その際自分に必要なことは、敵を一人でも多く行動不能にすること。
そして、出来るだけ場を混乱させ、ボスを無事に誘導する経路を確保することである。
「その為の武器です。」
それが、ボスのためであり、仲間のためであり、ファミリーのためでもあり、俺の誇りとなるものだ。
ならば散弾銃のようなものの方が効果的ではあるが、
そんなものをいつもぶら下げて歩く訳にもいかない。
狭い建物内でも有効なように、小回りが利いてその場に柔軟に対応出来るものが良い。
そして、
味方に分かるように、
敵に見せしめられるように、
脳裏に焼きつくものが良い。
狼煙だ。これは、狼煙なのだ。
…獄寺はほんと、“花火”が、好きなのな。
少し落ちた音がそういって、薄く笑った。
いつもならば、うるせえ黙れ野球バカ、と口を突いて出る言葉も、その時は出なかった。
好きか、嫌いか、と問われるのならば、自分は好きだと答えるはずだ。
慣れ親しんだ火薬のにおい、鉄と肉の焦げた臭いに、安堵する。
敵を撹乱させる快感。
敵が恐怖を感じていることへの快感。
一瞬にして己の優位を確信できる快感。
それなのに、
貴方の貌が曇り、…それじゃあ、あぶないじゃないか、とくりかえし、呟く。
俺の足元は震えた。
軋んだ。罅割れる。崩れる。音もなく、俺だけを払い落とすかのように。それは静かに。
俺は気付く。
それらが間違っていたことに。
俺のすべての思考が無駄だったということに。
しかしそれに悲観することはない。
だって俺は今、この瞬間、あなたの右側に立っていられるのだから、
それこそが正義であり真実であり総てであり、信念であり、俺の誇りとなるものだ。
だから、彼のたった一言で、俺の今までの総てが間違っていたとしても、
そのことに何の未練も何も感じられない俺は異常なのかもしれない。それならそれで構わないのだ。
ただ、そんな、こと、よりも、
あなたの貌が、曇るなら。
俺は、そのすべてを憎いと思うのです。
中に詰まった火薬の感触、火の温度、風の向き、沁みる煙、
悲鳴、爆音、衝撃、怒声、血の肉の骨の焼ける臭い、音、泣き声、
俺は、このすえた臭いに唾を吐く。
あなたがのぞまないのならば、俺はこれをおぞましいものと捉えます。
だから、あなたを危険から守るためだけに、家を護るためだけに、
この忌々しい悪魔を使うことを御赦しください。
何よりも高く、狼煙を上げろ。
血を焼き、命を潰し、大地を揺らして、
爆破して爆破して爆破してすべてすべてを壊してしまえ。
硝煙の乗った風に撫でられて、乾ききった唇が割れていたことに気付いた。
ぬるりと触れた鉄の味は、果たして自分の舌に触れたものか、それともこの風そのものの味なのか、もはやわからない。
問題なのは、
家、に帰って、彼の手の甲に口付けたとき、尊い其れを汚してしまうということだ。
ああ、
どうか、教えて、おれの世界を揺るがして。
この血が、 この愚かな赤が、 あなたのそれと同様に、 尊いもの で あることを !
ドアを3回ノックして、どうぞ、という返事を聞いて、俺はノブを回し、部屋へ足を踏み入れ、彼の掌へ口付けて、
あ な た に 、 会 い た い 。
「 お か え り 、 ご く で ら く ん 。 」
そう言って、微笑む貴方の声が、温度が、笑顔が、すべてが、 おれの、“ 家 ” 。
〜08.12.31