彼の武器は、なぜ殺傷能力の低いものであるか。
「それで、ころしあいが出来るの?」
彼の手の中にある鞭を指してそう聞いたとき、
彼は曖昧に笑っただけだった。
僕は、あなたが本気を出したときに戦いたい。
それが叶わないなら、ころしあいのできる武器をもったあなたと、闘いたい。
そして同時に、その事を酷く恐怖している。
あの手が、あの指が、例えば拳銃の劇鉄を起こすことを想像する。
あの広い手のひらが、ナイフの柄を握り締めることを想像する。
そうして、
多くのひとに友愛と敬愛を誓われた左手を、
殺意を秘めた右手に添えることを、想像する。
それは、酷く、おぞましい景色だった。
そして同時に、何よりも、何よりも、僕が渇望する姿であるのに!
「きょうや、どうした?」
ゆるく笑うあの人の左手が、僕の頭を撫ぜる。
同じようにゆるい温度を包むように刻まれたタトゥーのように、
人々はこの手の甲に口付けてきたのだろう。(そしてこれからも。)
僕は、彼の手に口付けることは出来ないし、彼も、僕の手に跪くことは出来ない。
(そしてそれは、ぼくたちが、きっと唯一、互いに、なによりも、望まないことで、あり。)
「腹でも空いてんのか?」
俺は、空いたぞ、と笑う声を、僕は知っている。
僕の頷きに、頷いてくれる目を、僕は知っている。
そうしてきっとこの後、拙い手付きでフォークとナイフを握るであろう両手を、僕は、知っている。
そしていつか、
僕の目の届かないところで、拳銃を握るであろうことも、僕は、
過去未来現在と其の死角に於いて、
そしていつか、 僕の知らない荒んだ色を湛えた、 錆びた 金 の瞳を、 僕 の 前 に 曝 け 出 す 日 を !
〜08.12.31